2008年12月日記
2008年12月25日 DJ A.M
やあ、こんばんは。君もご存知の通り、今夜は聖なる夜クリスマスだ。
こんな特別な夜に僕の声が君に届いているなんて、少し照れてしまうね。まあ、気にすることは
ない。どうせここには僕ら二人きりだ。聖なる夜にこんなクソッタレな放送を聴いているクソッ
タレな人間は君だけさ。おっと、気を悪くしないで欲しい。この特別な日にわざわざ時間を割い
て放送を聴いている君よりも、この特別な日にこんな放送をしている僕の方がもちろんクソッタ
レだからさ。そうだろう? チキンも食べず、ケーキも食べず、電飾したツリーも飾らず、おど
けた様子でクラッカーを鳴らしたり、なんてことは一切せずに、このクソッタレな放送だ。

今日は特別な夜、クリスマスだ。子供は赤装束を纏った老人がどこからか家宅侵入しプレゼント
を置いていくのを待ちわびて夢の中だ。年頃の若者たちはそれぞれの恋人とピンク色の煙突と白
いプレゼントを持ったサンタが出たり入ったりしてホワイトクリスマスさ。
こう考えると、煙突から入ってくるサンタがプレゼントを渡す御伽噺ってのは笑えてくる暗喩だ
と思わないか?
恋人がいない若者だって? それでもやっぱりクリスマスは特別な夜だ。恋人がいないことを嘆
き、持たざるものが持つものを妬み、アップローダーには「クリスマス中止のお知らせ」、
「エロ画像」、「モニターいっぱいに映し出された『嫁』の前にケーキを供えて『メリークリス
マス』」。やっぱりそれぞれがそれぞれの特別な夜を楽しんでいる。

もちろん僕だってそうだ。
こんなクソッタレな放送をしているとはいえ、やはり特別な夜には変わりがない。
この聖夜に君と出会えたことに、ささやかながらお祝いをしたいと思う。シャンパンだ。いやい
や、そんな気の利いたものじゃないさ。このビルの下にあるコンビニで買ってきたものだ。

君とグラスを合わせることができないのが残念だが、勘弁して欲しい。
「メリークリスマス」

さて、さっきも言ったとおり、ここには君と僕の二人だけだ。この放送を聴いているリスナーは
君ただひとり。だから、僕も気兼ねすることなく喋ろうと思う。いいだろう? 

実は僕は、クリスマスが好きなんだ。
こう告白すると君は勘違いするかもしれない。お前もリア充か、煙突に出たり入ったりするドス黒
サンタか、とね。そうじゃない。僕には恋人なんていないし、365日休みもなく福利厚生どころか
給与体系すらもグレーな住み込み警備員だ。リア充なんてとんでもない。顔が濡れただけで立ち上
がることすら危うくなる虚弱体質さ。そうそう、映画「グレムリン」には笑ったよ。「ギズモ」
っていう毛むくじゃらの生き物が出てくるんだが、水を掛けられただけで増殖するんだ!
注意書きには「水を掛けないこと」だぜ? あいつとは一度酒を酌み交わしてみたいもんだよ。

話が逸れたな。僕は、クリスマスは嫌いじゃない。どちらかというと好きな方だよ。僕はお祭り
だとかイベント事が好きでね。よく家の前でパンを焼いて皆で食べたり、知り合いを呼んでホーム
パーティみたいなことをするんだ。

考えてくれよ。最初に言った、カップル共はもちろん、僕らのような非モテ、非リア充だって
クリスマスを楽しんでいる。「クリスマス中止のお知らせ」で皆が団結してひとつのイベントを
作り上げてる。予定がない、モテない、それならそれで独りでケーキを買ってきて、モニターに
映った二次元少女の前に供えて、その画像をアップロードして皆で共有する。「リア充は死ね!
氏ねじゃなくて死ね!」と皆がひとつになってクリスマスを盛り上げる。最高にハッピーじゃな
いか。モテと非モテの垣根なく皆が楽しめるイベントだよ。世界中が楽しんでるイベントだ。

……まあ、世界中ってのは御幣があるね。僕らは恵まれていて、時に見失うときがある。
ありきたりで少々恥ずかしい表現だけど、世界には食べられない人がいる。水が飲めない人がい
る。今、この瞬間にだって、飢餓で死んでいる人間がいる。それこそクソッタレな地雷を踏んじ
まって体が二つになって「殺してくれ!」って叫んでる人間がいる。
生まれてきて、栄養失調でそのまま死んでいく赤ん坊がいる。体を売って、性病で死ぬ子供がい
る。わけのわからないうちに頭に布をかぶせられ、「神の名の下に」首を切られて死ぬ人間がい
る。ライオンに襲われるシマウマとはわけが違う。
こんな話をして、「かわいそうだね」なんて思う、そのこと自体が僕らが恵まれていて、見失っ
てるってことなんじゃないかって思うのさ。
「かわいそうだね」と思うこと、それ自体が恵まれているってことなんだ。持つ者の考え方さ。
例えば君が空腹に倒れそうになりながら道を歩いているとき、目の前に頭がアンパンの男が歩い
てきたら、どうする? 生まれや育ちによるかもしれないが、そんなときに「男の頭であるアン
パンを食べてしまってはかわいそうだ」なんて思うかい? なりふりかまわず、それこそ必死に
なってアンパン男に襲い掛かってその頭を貪るだろう? クリスマスなんてクソ食らえだ。チキ
ンだろうがケーキだろうがなんだっていい。とにかく何か食いたい、そう思うだろう。

こんな特別な夜だけど、こんな特別な夜だからこそ僕は思うんだ。
「何の為に生まれて、何をして生きるのか。わからないまま終わる、そんなのは嫌だ!」ってね。

……頭をかじられる度に、取り替えられ、打ち捨てられて薄汚れた、さっきまで体に乗っかって
いた自分の頭を見るたびに思うんだ。
次はないかもしれない。クソッタレなカバやらウサギやら、あいつらに頭を食われて終わるのが
僕の人生なのかもしれない。じゃあ僕は何の為に生まれたんだ? 今まで何を成したんだ? 何
をして生きてきたんだ? とね。
口の周りをあんで汚して、満足げにニヤつきながらこちらを見るあいつらに「大丈夫? かわい
そうだけど、おなかが減っていたんだ」なんて言われる度に思うんだ。
お前らのひと時の憐憫を誘うのが僕の人生の結末か、「かわいそうだね、私たちは恵まれていて
良かったね」とお前らの優越感を満たすために僕は生まれてきたのか。そんなのは嫌だ!!


……少々青臭い話をしてしまってすまない。少し酔ってしまったのかもしれないな。はは、これ
じゃあDJ失格だな。でも、ここには僕と君だけだ。気にはしないよ。
……そろそろ時間が来たようだ。君と出会えてよかった。
またいつか、このチャンネルで会えるといいな。

それではまた会う日まで。
メリークリスマス。